その35「アートの贈り物」

こんにちは。花祭窯おかみ・ふじゆりです。

3月は門出の季節。読者の皆さんやその身近な方にも、この春新たな一歩を踏み出す方がいらっしゃるのではないでしょうか。
親しい方へのはなむけに、わたしがお勧めしたいのは「アートの贈り物」です。ちょっと敷居が高く感じるかもしれませんが、だからこそ、ごく親しい方への贈り物として。特に若い方への「最初のアート」の贈り物は、時間が経つほどに意味が深まる可能性を秘めています。まだアートを買ったことのない方への贈り物にこそ、おススメです。

一番良いのは、一緒にギャラリーなどに出かけて、予算のなかで好みのものを選んでもらうことですが、それができる相手となると限られてきますね。アートも平面・立体といろいろです。こちらで選ぶ場合、好みがわかっていればそれに合わせて選ぶことができますが、わからないときは、絵画や版画などの平面作品が無難でしょう。それをどこで選ぶか。アートギャラリー、百貨店の美術コーナーなどが頭に浮かびますが、例えば美術館のミュージアムショップで選ぶという方法も。

アートギャラリーでは、作家の有名無名にかかわらず惹かれる作品・力を感じる作品を探せるといいですね。サイズの小さいもの(小品)でも、本物の持つ力にあふれた絵画や版画があります。それが現代ものであれば、作家本人に会う機会があるかも!という楽しみも。一方、ミュージアムショップで手に入るのは複製画ではありますが、きちんと額装されたものは、空間の雰囲気をガラッと変える力を持つインテリアアートになります。有名作品の複製画を身近に置くと、現地に実物を見に行こう!という楽しみが生まれたりもします。いずれにしても、実店舗でサイズ感を体感したうえで手に入れるのがベストです。

また「アートを買うのはちょっと」という場合は、アプローチを変えて、美術館・博物館の展覧会チケットを贈るという方法も。どんな展覧会があるのか、展覧会期間内にその美術館に足を運べそうか、タイミングが難しい面もありますが、モノではなくコトを贈る「体験の贈り物」は、近年人気が高まっています。美術館の展覧会チケットに近くのレストランでのランチをプラス、なんて組み合わせも喜ばれそうですね。

大切な方へのはなむけにアート。受け取った方の人生に、作品そのものだけでなく、気持ちの豊かさ・いろどり・きっかけを届けることのできるものです。贈り物の選択肢の一つとしていかがでしょうか。

<日常の禅語>一笑萬人賀(いっしょうすれば ばんにん がす)

笑顔はすべての人を幸せにする、というほどの意味です。わたしがこの言葉をいただいたのは、コロナ禍で2年間お休みになっていた茶道のお稽古がようやく再開したお茶席でのことでした。茶道の師である和尚様からのたいせつなメッセージ。

ふだんお稽古をする茶室の水屋には、代々の師(和尚)の肖像写真が掲げてあります。凛々しい顔つきに並んで、なんとも大らかな笑顔のお写真が一枚。先々代師匠です。初めて拝見したときは「大笑いしているお坊さんの写真って珍しいな」と思いました。でも、緊張する場面も少なくない茶道稽古のなかで、その笑顔に知らず知らず助けられているのですね。失敗して落ち込んだ時も、ふと顔を上げると笑っている先々代のお顔が目に入り、気持ちが暖かくなります。

幸せだから笑う、ではなく、笑うことで幸せを呼び込む。コロナ禍以降、孤独に陥ったり、物事も思考も停滞してしまったり、不安に苛まれたりという経験を、たくさんの人がしたと思います。一笑すれば万人賀す。笑う門には福来る、です。笑顔で自分自身も周りも暖かにしていきたいですね。


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

花祭窯(はなまつりがま)
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