その17「菊の節句」


こんにちは。花祭窯おかみ・ふじゆりです。

九月といえば重陽(ちょうよう)の節句。菊の節句とも言われます。一月一日の元旦、三月三日の雛祭り、五月五日の端午の節句、七月七日の七夕に比べると、日本国内ではメジャーとは言いにくい九月九日重陽の節句。でも中国では、もっとも縁起が良い日とされています。やきもの、特に磁器は中国大陸文化の影響を大きく受けています。器に描かれる文様に、重陽の節句や菊の花にまつわるものがたくさん残されているのです。

中国の陰陽の考え方では、奇数が「陽」で、偶数が「陰」。九は縁起が良いとされる陽数のなかで最大の数字であり、それが重なる九月九日は、節句のなかでも特別におめでたいとされています。菊を鑑賞し、盃に菊を浮かべたお酒を飲んで、不老長寿と無病息災を願います。薬効のある菊は、節句料理にも用いられます。日本では奈良時代に菊とともにこの風習が中国から伝わり、平安時代から江戸御時代にかけては宮廷行事として「菊花の宴」が行われていたとされています。

文様・デザインの視点でみると、日本の吉祥文様「松竹梅」に対し、中国では「四君子=竹、梅、蘭、菊」があげられ、水墨画や工芸品に描かれる題材として古来より人気があります。日本で菊の花のデザインと言えば、皇室の紋章が有名ですね。日本で菊の花が高貴なものの象徴として描かれる傾向にあるのは、その影響もありそうです。

実際に菊の花が咲く季節としては、これから十一月にかけてが本番。最近は食用菊も手に入りやすくなっていますので、菊を愛でつつ菊酒を楽しむのもいいかもしれません。

<日常の禅語>一華開五葉(いっかごようをひらく)
「ひとつの花が、五つの花びらを開く」というもの。このあとには「結果自然成(けっかじねんになる)」と続きます。

「華」「開」「成」と縁起のよさを感じる文字が並ぶので、好んで書にされることも多い禅語のひとつと言われています。わたしが出会ったのは、あるお正月のこと。見た目の第一印象に惹かれ、意味も知らぬまま書き初めの文字に選びました。書けば意味も知りたくなるもの。本やネット検索で調べた結果、わかったのは次のようなことでした。

「一華開五葉」。五つの花びらを開くその花は、本来その人自身のなかにある花。五つの花びらがいったい何であるかは、自分自身を深く見つめ探求する(修行をする)ことで知る(到達する)ことができる、というほどのものです。そして「結果自然成」。探求すればおのずから結果はついてくるものであり、結果が予期(期待)していたものであっても無くても、その道のりは決して無駄にはならないとも教えているようです。

書き初めのあとにこのような解釈を得て、嬉しくなりました。ところが二月ほど経ったある日のお茶のお稽古で、和尚さまが書物を読み解きながらおっしゃったことにハッとしました。いわく、禅においてはその文字の姿や読んだときの音そのものを受け入れることが大切であると。
インターネットで即時に検索できる時代ですが、禅においては、無心で繰り返し読んだり(読経・音読)書いたり(写経)し続けることこそが、真の意味の理解へと近づいて行く方法なのかもしれません。


花祭窯おかみ・ふじゆり(藤吉有里)

「古伊万里」の名で知られる肥前磁器の伝統工芸文化、技術を基にした窯元「花祭窯」のお内儀。おかみとして窯を支えつつ、自らもアートエデュケーターとしてMeet Me at Artを主宰する。

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